恋は小説よりも奇なり
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「ただいま戻りました。武長先生の原稿です」
編集部に戻った満は、帰りを今か今かと待ちわびていた珠子に原稿を手渡した。
「よーし、よしよし!さすが私が見込んだ子。先生のお気に入り!」
珠子は満の頭が鳥巣になるほどに撫でまわしてハグをした。
人手不足とはいえ、原稿の回収へ向かわせたことをかなり心配していたようだ。
「……ん?なんか硬い……」
満の身体を強く抱きしめている珠子が胸元に違和感を覚える。
若くてピチピチした柔らかいはずの女子大生の胸元が、洗濯板でも挟んでいるかのようにカチカチだった。
珠子が離れると、満は後生大事に抱えていた小説を出した。
「実は……武長先生にサイン入りの本をいただきました。私が好きで勝手に先生のお誕生日をお祝いしただけなのに、逆に気を遣わせてしまったようで……」
満は控えめに笑ってみせる。