恋は小説よりも奇なり
珠子は血相を変えた。
その本こそ例の“手切れ本”に間違いないとすぐに分かる。
険しい顔つきで満の手を引き、人気の少ない給湯室へと移動した。
「満ちゃん、受け取っちゃったんだ。手切れ本……」
二人きりの給湯室で、珠子は深刻そうに話を切り出す。
「え……手切れ本?」
満には何のことだかさっぱり分からず、珠子の言うことに首をかしげることしか出来ないでいた。
「満ちゃんが持ってる本のこと。もしかして、先生ったら何も言わずにあなたに手渡したの?」
満が抱えている小説を指さす珠子。
気まぐれで誕生日プレゼントを拾ったこと以外は聞かされていない満は「はい、特には……」と浅く頷く。
「“自分で渡せ”とは言ったけれど、先生にプレゼントを渡した子が満ちゃんだって知っていたら“絶対に渡さないで!”って言ってたのに!」
珠子は数か月前の自分の行動を激しく後悔して、キーッと頭を抱える。