恋は小説よりも奇なり
落下事故から三十分、満は館内を巡り続ける。
武長 奏の小説を中心に気になる作家の本を両手いっぱいに抱え、重みを感じると席へ戻るのがお決まりの行動パターンだ。
「…………」
自分の席へ戻って満は言葉を失った。
それどころか、持っている小説をうっかり床にぶちまけてしまいそうだ。
思いっきり下敷きにしてしまった男と相席だなんて誰が想像しただろう。
少なくとも、三秒前の満は想像さえしていなかった。
「そんなところで何をしている。俺にまだ何か用か?」
男は相変わらずの不機嫌さで満の顔をチラリと見た。
黒縁のメガネをかけている分、今の方が威圧感倍増だ。
「あの……荷物がその――」
満は遠慮気味に彼の前の席に置かれたショルダーバックを指差す。