恋は小説よりも奇なり
「満ちゃん……その小説、私から先生へ返しておこうか?」
珠子は精一杯気を遣いながら満に尋ねた。
自分と奏の縁切りを珠子が微塵も望んでいないということが満には救いだった。
「いいえ。これは私がいただいたものなので。ちゃんと受け取ります」
満は珠子の気遣いをやんわりと断り、小説をより一層強く抱く。
ほんの一呼吸分目を閉じて、奏のマンションを訪れた時のことを思い返した。
そして続ける。
「私は人としても社会人としてもまだまだ未熟で、先生の傍をチョロチョロとしていいわけないんですよね……」
「そんなことな――…」
否定的な発言に珠子が訂正をしようと口を開いた時、その言葉を打ち消すように「これは!」と満が少しだけ口調を強めた。