恋は小説よりも奇なり
「これは先生の意思だと思うので。いくら早見さんでも根拠のない慰(なぐさ)めは辛いです……」
珠子もこれ以上は言葉をかけてやることが出来なかった。
もしも、これが本当に武長 奏の意思だとすれば、自分の発言など何の意味も持たないから。
「早見さん、私、大学を卒業して一人前の編集者になれるように頑張ります。
作家を作家としてだけじゃなく、一人の人としてもちゃんと理解できる編集者になりたいから」
たとえ、武長先生のそばに居られなくてもそんな人間でありたい……
彼のお蔭で明確になった目標を叶えよう。
残っているのはそれだけなんだ。
満の決意は瞳を通じて珠子にも伝わった。
「その言葉、武長先生に聞かせてあげたいわ」
珠子は二カッと太陽のように笑み、「頑張んな!大学生!」と満の頭を撫でて編集部へ戻っていく。
満は彼女の背に深くお辞儀をして見送った。