恋は小説よりも奇なり

男も満の指先を追うように視線を動かした。

「なんだ、その鞄はお前のだったのか」

「そうなんです。まさか、相席の方があなただったなんて……世間は狭いですね」

このチャンスを逃すまいと満が席へ駆け寄る。

「ははは……」と必要以上の乾き笑いも、そうでもしなければ近づけない雰囲気を払拭(ふっしょく)するためのクッション材にすぎない。

「本当にな。神様の嫌がらせとしか思えない」

男は悪びれた感じも無くさらりと失礼な発言をする。

下敷きにした事を許してくれた時は“ちょっと優しいかも……”と思った自分が馬鹿みたいだと、満はガッカリした。

「すみませんでした!神様の回し者はすぐに退散するんで、ご心配なく」

さすがの満も少し口調を強め、椅子の上のショルダーバックを乱雑に小説の上に乗せる。
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