恋は小説よりも奇なり

「さようなら」と棘のある挨拶をし、すぐにその場を立ち去るつもりで踵(きびす)を返した。

「待ちなさい」

男は満の腕を掴んで引き止める。

「まだ何か私に用ですか?」

我ながら可愛くないと思いつつ、満は素っ気無い口調で男と同じように尋ねた。

「俺は“神様の嫌がらせ”だと言っただけで、ここを去れとまでは言っていない」

「あなたの雰囲気がそう言ってるんです」

「雰囲気で人を判断するな。俺が言っていないと言っているのだから問題ないだろ」

「でも、“相席がまさかコイツなんて……”とは思ってるでしょう」

「それは思っている」

「やっぱりさようなら!」

満は彼の手を振りほどこうとした。

しかし、いくら腕を振っても男の手は一向に離れない。
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