恋は小説よりも奇なり
振りほどこうとムキになっていると、持っている本がグラグラ揺れ始めた。
絶妙なバランスで重ねられていたそれらはあっという間にバランスを崩し、静寂が保たれた館内にもの凄い音を立てながら崩れ落ちた。
その瞬間の利用者と管理者の視線は、言葉では言い表せないほどに氷刃なものだった。
「あなたが離してくれないから落っことしちゃったじゃない」
「人の所為にするな」
「恥ずかしいなぁ、もう……」
満は込み上げる羞恥心で顔を茹ダコのように真っ赤にしながら落ちた荷物や小説を拾う。
「わざとじゃないなら気にすることはない」
男も席を立ち、満を手伝った。
「あなたがそれを言います?」
「お前がつまらないことを気にするからだろ」
男はしれっとした表情で黙々と本を拾う。