恋は小説よりも奇なり
親密そうな彼らをこれ以上見ていたくなかった。
このままここに留まってはいけないと心が警鐘(けいしょう)を鳴らす。
「いいえ、大丈夫です。し、失礼します……」
満は絢子の厚意をすぐに断った。
感じが悪かっただろうか……などと気にかけている余裕は今の満にはない。
その美しい声音から少しでも遠くへ逃げる事にとにかく必死だった。
「絢ちゃん、来客は?」
なかなか戻らない絢子を気にして、奏が部屋の奥からヨロヨロと顔を出す。
「それが、縁のついたメガネをかけたセミショートの女の子なんだけれど、用件を聞こうとしたら急に帰っちゃって――…」
「なっ……」
「武長さん、心当たりでもあるの?」
「まぁ……」
心当たりどころかその特徴に当てはまる人間は、奏の知り合いの中でただ一人だけ。