恋は小説よりも奇なり

しかし、一冊の本を手にとると動きがピタリと止まった。

彼が持っているのは青いハードカバーの『ブルーバードがゆく空』だ。

「これ……借りるのか?」

満は素直に「えぇ」と頷いた。

「武長 奏が好きなのか?」

「好きっていうか……大好きです。どうしてそんなことを聞くんですか?」

男の質問に今度は満の方が聞き返す。

「いや……別に」

男はまるで興味ない素振りでその本を机に置いた。

結局、男に引き止められるまま最初の席で彼と相席をすることになった。

会話は無い。

満はただ黙々と小説を読み、男はなにやら小難しそうな本に目を通しながらノートにメモをとっている。

このご時勢では珍しく男は鉛筆を起用していた。

シャーペンじゃないんだ……などと口が裂けても言えない。
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