恋は小説よりも奇なり
彼のお蔭で大切な人が増えて、素敵な経験をして、初めての気持ちを知った。
全てはこの場所から――…
満は図書館の白い大きな外観をふわっと見上げる。
桜の花びらがどこからか迷い込んできた。
うららかな春の陽気に誘われるように花びらが飛んでいた方向へ歩いていく。
市立図書館の周りは様々な木々や花が茂っていた。
こんなところがあっただなんて今まで知らなかった。
足を踏み入れれば草木の香りが鼻こうをくすぐる。
一際存在感のある桜の木。
この場所の主だと告げているように堂々と花を咲かせている。
満は桜吹雪の中に人影を見た。
大きな幹を仰ぐ後姿。涙が出そうだった。
「武長……先生」
満のかすれた声など春風にのってすぐにどこかへ飛んで行ってしまう。