恋は小説よりも奇なり
「用があるなら無理にとは言わないが……」
満の視線に飛び込んできたのは奏の困り顔。
「いいえ、大丈夫です」
「そうか」
彼女の了承を得た奏は距離の短い桜並木を奥へと進んでいく。
満は置いて行かれないように慌てて彼の横についた。
桜並木の先には三人掛けの古いベンチがある。
奏は当然のごとくそのベンチに腰掛け、満は彼の横へと遠慮気味に座った。
「私、市立図書館にこんな素敵なところがあっただなんて今まで知りませんでした」
「裏手だからな。来館者からはあまり見えない」
「ここ……よく来るんですか?」
「あぁ。図書館よりも静かでよく本を読んでいる」
足を組む奏の膝に一冊の本が置かれているのに満は気付いた。