恋は小説よりも奇なり
「なんかすみません……。先生の憩いの場に勝手に入っちゃったみたいで」
「別に構わない。誰が入ろうと自由だ」
満も奏の言葉に納得する。
自然豊かで何人(なんびと)も拒まない。
ここはそんな場所だった。
「すみませんついでにもう一つ……」
満は申し訳なさそうに眉を下げて話を切り出す。
奏は満の方へ顔を向けて「何だ」と問う。
「その節は酔っぱらったところをアパートまで送り届けて頂いたようで。その……ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!」
全身全霊をかけて謝罪する満。
身体を真っ直ぐに奏の方へ向け、ベンチに座った状態で深々と頭を下げる。
今日は頭を下げてばかり。
彼の足もとばかり視界に入って、わずかな靴の汚れまで記憶してしまいそうだ。