恋は小説よりも奇なり
今の彼女には偶然が織り成した間の悪さを恨むことしかできなかった。
一機の飛行機が轟音を響かせて空港を離れていく。
まるで大空へ飛び立つ鳥のよう。
「……それで、結局のところ留学自体は行くのか行かないのか?」
「行きません。私の夢はここにあるので」
満は即答した。
今日もっとも歯切れの良い口調で。
「世界一周無期限の旅は?」
「言わずもがなです」
「そうか」
奏がいつも通り答えた。
「ねぇ、先生。もしも私が日本から離れることになったらほんのちょっとでも淋しいと思ってくれますか?」
飛び立ちを待つ大きな鉄の鳥を眺めながら満は尋ねる。
「何を急に……」
「そ、そうですね……。どこへも行かないって今さっき言ったばかりなのに淋しいもなにもあったものじゃないですよね。むしろ、鬱陶(うっとう)しいぐらいで申し訳ないというか……」
ハハハッと満の乾いた笑い声。