恋は小説よりも奇なり


伝えるほどに気持ちが昂(たかぶ)って満の涙腺は決壊寸前。

奏は当惑顔で浮かべ、時々空(くう)を見上げては後頭部を掻いている。

彼の表情を見て、満の目からついにポタリと滴が落ちた。

泣けばますます彼を困らせてしまう。

その一心で、満は唇を引き結んだ。

「お前は恋愛小説も読むのだろう。こういう時は男の言葉を待つものだ」

奏の手がふわふわとした満の細い髪をすくった。

そこへ薄い唇をつけていく。

「好きだ……満」

耳元で囁かれた甘い声。

ピリピリと満の神経を支配する。

初めて名前を呼ばれた時と同じ感覚。

しかし、あの時とは比べ物にならないほどの刺激。

嬉しくて満の心は今にも張り裂けそうだった。

すぐにでもその温かい胸に飛び込んでしまいたい。

< 229 / 250 >

この作品をシェア

pagetop