恋は小説よりも奇なり
伝えるほどに気持ちが昂(たかぶ)って満の涙腺は決壊寸前。
奏は当惑顔で浮かべ、時々空(くう)を見上げては後頭部を掻いている。
彼の表情を見て、満の目からついにポタリと滴が落ちた。
泣けばますます彼を困らせてしまう。
その一心で、満は唇を引き結んだ。
「お前は恋愛小説も読むのだろう。こういう時は男の言葉を待つものだ」
奏の手がふわふわとした満の細い髪をすくった。
そこへ薄い唇をつけていく。
「好きだ……満」
耳元で囁かれた甘い声。
ピリピリと満の神経を支配する。
初めて名前を呼ばれた時と同じ感覚。
しかし、あの時とは比べ物にならないほどの刺激。
嬉しくて満の心は今にも張り裂けそうだった。
すぐにでもその温かい胸に飛び込んでしまいたい。