恋は小説よりも奇なり
胸の奥をざわつかせる小さな嫉妬心。
自分の方だけを見て欲しい。
溢れる気持ちに絡みついた欲情。
さらさらと吹く風が奏の手から満の髪をさらっていく。
「気になるならもうお前の前で彼女の話はしない。それでも不安が消えないのなら雪乃の事はもう――…」
「ダメです!」
満は奏の言葉を遮った。
これ以上、言葉を出させてはいけない気がした。
悲し過ぎる負の台詞。
もう十分だった。
満は彼の胸に飛び込んだ。
「ダメですよ……忘れちゃ。いなくなってしまった人は思い出の中でしか生きられないの。先生が雪乃さんを忘れちゃったら……雪乃さん、本当に死んじゃうよ……」
堪えていた満の涙腺が決壊する。
首を激しく左右に振れば、零れ出た透明な滴が散った。