恋は小説よりも奇なり
「ごめん、満。アンタが本を買い終わるまで待っていたいんだけど、急に予約がキャンセルになったから早く来いって店長から電話があって……」
自己紹介を終えた樹が申し訳なさそうな表情をして満に耳打ちする。
「気にしなくていいよ。私はもう少しゆっくり本を見てから帰るし」
満はあっけらかんとした物言いで了承して頷いた。
「また連絡するから」
小指と親指だけ立ててそれを耳に当て“電話をする”と示す樹。
「了解。バイト頑張って」
満が穏やかな笑みで答えた。
「お会いしたばかりですが、これから私用を控えていますのでアタシはこれで――…」
満に了承を得た後、樹は奏と大和の方を向いて丁寧に挨拶をする。
奏は樹に対して浅く一礼するだけだ。
「それは残念。時間が出来たら名刺の裏の番号にでも電話して」
何も言わない奏とは対照的に、大和は名刺の裏をジェスチャーで示すとニコリ笑顔で樹を見送った。
満は自分が貰った名刺の裏を確認する。
勿論、そこにもボールペンで携帯番号らしき数字が並んでいた。
「満ちゃんもね!」
大和が言うと、満はもう笑うしかなかった。