恋は小説よりも奇なり
大学帰りに立ち寄った市立図書館で、彼の小説を初めて見つけたのが数週間前のこと。
切なくて悲しくて涙が出る。
涙の泉にほんの少しの希望と温かみが溶け込んで、読み終えたあとはいつも不思議な気持ちになった。
作家や小説についてそれなりに詳しい方だと満は自負していたが、それはちょっとした自惚れだと思い知らされた。
例えるなら――…
三十六色の色鉛筆を自慢げに持っている自分の前に、百色の色鉛筆を出された感じ。
自分の知らない世界を見て、惹きつけられないはずがない。
満はすぐに武長 奏の虜となった。
自分よりも背の高い本棚の間をゆっくりとしたペースで歩いていく。
本棚の中はギッシリというよりところどころ空欄状態だった。