恋は小説よりも奇なり

樹がバイトへ向かい、それからすぐに大和が出版社から呼び出しを受けてしまってから、奏と満は必然的に二人きりで取り残される事になった。


『奏、ちゃんと満ちゃんを家まで送っていけよ。男としての義務を果たせ』


大和はそう言い残して会社へと戻っていった。

「あの……用が無いのなら先に帰っても大丈夫ですよ?」

やっと見つけたお目当ての小説を持ち、満はその著者である奏に言ってみる。

彼女なりの気遣い。

満の横で立ち読みをしている奏が気遣わしげな満の顔をみて本を閉じた。

「そうはいかないだろう。もう夜の八時前だ。外は暗くなりはじめてる」

奏は小説を棚に戻し、腕時計で時刻を確認する。

「暗くても一人で帰れますよ。高津さんには家まで送ったって言っちゃえば済むことだし」

大切な時間を束縛しているようで申し訳ない気持ちでいっぱいの満。

声は段々と小さくなる。
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