恋は小説よりも奇なり

満は交差点を歩く奏の広い背中を追うようについて行く。


シャツに皺(しわ)がよってる……


アイロン掛けがあまり上手にできていないのを見ると、一人暮らししてるのかなぁ……とか料理とかちゃんと作れるのかなぁ……などと色々と想像してしまう。


いらぬ妄想は満の悪い癖。


「おい、満!信号変わるぞ、急げ」

ポテポテと横断歩道を歩いていた満の手を奏の温かい手が包み込むように触れ、突如駆け出した。

片側三車線の長い横断歩道。

早く渡りきらなければ信号が赤に変わってしまう。

しかし、今の満にとってそんなことは些細な問題だった。

手を包む温かな手の感触。

耳の中で反芻(はんすう)する“満”と名を呼ぶ低い声。

神経毒にでもやられたように全身がピリピリして、彼に手を引いてもらわなければとても走る事などできなかった。
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