恋は小説よりも奇なり

「またこの夢――…」

奏はベッドの上で天井を見つめながらぼんやりする。

満と最後に会った日から、ほぼ毎日のように同じ夢で目を覚ました。

心の鍵が今になってカタカタと音を立てているようだった。



身体が気だるくて起きる気がしない。

時計は午前九時を回っていた。

今日は担当編集者が打ち合わせにやってくる予定となっている。

奏はようやく重たい身体を起こして洗面所へ向かう。

その時、来客を知らせるインターホンが鳴った。

「せーんーせーい!武長先~生!早くここを開けて下さい」

玄関先から聞こえる女性の声は早朝だというのに元気が良い。

声の主は作家 武長 奏の担当編集者の早見 珠子(はやみ たまこ)だ。

奏は来客を待たせているにもかかわらず顔を洗い、歯を磨き、着替えまで行った。

“待っていろ”の一言も無ければ、急ぐ気もない。
< 37 / 250 >

この作品をシェア

pagetop