恋は小説よりも奇なり
「またこの夢――…」
奏はベッドの上で天井を見つめながらぼんやりする。
満と最後に会った日から、ほぼ毎日のように同じ夢で目を覚ました。
心の鍵が今になってカタカタと音を立てているようだった。
身体が気だるくて起きる気がしない。
時計は午前九時を回っていた。
今日は担当編集者が打ち合わせにやってくる予定となっている。
奏はようやく重たい身体を起こして洗面所へ向かう。
その時、来客を知らせるインターホンが鳴った。
「せーんーせーい!武長先~生!早くここを開けて下さい」
玄関先から聞こえる女性の声は早朝だというのに元気が良い。
声の主は作家 武長 奏の担当編集者の早見 珠子(はやみ たまこ)だ。
奏は来客を待たせているにもかかわらず顔を洗い、歯を磨き、着替えまで行った。
“待っていろ”の一言も無ければ、急ぐ気もない。