恋は小説よりも奇なり
「今でも夏休みの宿題に感想文とか出てるのかなぁ……」
中高生の長期休暇事情を目の当たりにするとしみじみと考えてしまう。
そして、自分が捜し求めている小説が“貸し出し中”になっていないか不安になって、その場所に辿り着くまで安心することができない。
「武長 奏……武長 奏……」
満は規則正しく並ぶ本と平行に自らの指をスライドさせる。
作家の名前を頼りに棚の上から下まで舐めるように探して“武長 奏”の名前を見つけると、彼女の瞳はキラキラとビー玉のように輝いた。
手……届かない。
目的の小説は本棚の上段にズラッと並んでいる。
満の身長は一般女性の平均ぐらいだが、それらは背伸びをしても届かない位置にあった。
大好物を目の前に“待て”をさせられている犬の気分だ。