恋は小説よりも奇なり
「図書館でくらい静かに出来ないのか」
静寂な空間に突如響く低い声。
女子高生たちは揃って満を睨みつけた。
勿論、それを言ったのは満ではない。
心の中で思っていても口に出せないのが瀬戸 満なのだから。
満は“自分ではない”という意思表示として、首が取れそうなほど左右に振ってみせる。
その時、彼女が乗っている脚立のそばで分厚い書籍をパタンと閉じる音がした。
男は物凄い形相でこちらを見ていた。
整った顔立ちをグシャッと歪めて不愉快だと語っている。
彼の瞳(め)は“お前もこのクソガキ共の仲間なんだろ……”と言っているのが満には容易に想像できた。
満はすぐに誤解だと言わんばかりに再び首を横に振る。
「気が付かなくてすみませーん」
女子高生のひとりが男に駆け寄った。