大嫌いの裏側で恋をする

『田代さんに目つけられたるみたいで』

田代さん、とは。
この関東支店の営業課で1番古くから在籍している女性社員であり、吉川いわく、
『おっかないお局さん』なんだという。
そんな田代さんが、1人で受け持っていた請求関連の業務を顧客増加に伴い各営業事務に振り分けたのが数年前。
その後、後任へ引き継ぎもなく辞めたのが前任の事務。
何も知らないままの石川が、請求関連の教えを田代さんに求めたわけだが。

『それは、あなたのチームの問題でしょう、私は以前の方にきちんと引き継ぎをしましたよ』

まあ、そんな感じでバッサリ切られたんだとか。
これもまた、吉川いわく、

『女ってのは色々ややこしいんだよ』

(ややこしいって何だ? )

『私が手伝える範囲では手伝うけど、微妙に課が違うと触れない部分もあるから』

――アンタも見てやっててよ。
そう、睨まれた。

金を回収できなければ困るのは俺だし、どうしたもんかと考えながらも外出をし、夜の10時。
事務所に戻った俺の目に、フロアの奥でもぞもぞと動く丸まった背中が映る。

(何してんだ、こいつ)

――石川だ。 こんな時間までこいつ何してんだ? しかも1人で。

女が1人残るには褒められた時間じゃねぇし、しかも何も聞いてない。
ここまで残業させなきゃならない程の仕事も渡してない。
と、俺が眺めてることにも気が付かず
奥の棚をあさっては睨んで、探っては睨んで。
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