大嫌いの裏側で恋をする
「…………好き」
「え」
やっと声が出たと思ったら悔しいくらいに間抜けな声だ。
(ちょっと待て今こいつなんて言った)
頭が追いつかない。
でもなにひとつ、聞き逃すわけにはいかない。
「片想い頑張るぞって、意気込んで来たんですよ、今日」
軽く頰に触れていた指先を、引いて。
「仕事に行く時の倍は化粧も服も悩んで、ちょっとでも高瀬さんによく思われたいなって……っ、なのに、嘘っ、私なんか」
ついに嗚咽混じりに泣き出した。
俺は一度引いた手を伸ばし、細い手首を掴み。
更にサラリとした髪の感触を感じながら後頭部を持って強く引き寄せた。
「ねえ、ほんとですか? ほんとに、私のこと……っ、高瀬さん、ほんとに、」
「それを聞きたいのは俺の方だ」
ポスっと、あまりにも簡単に小さな肩は腕の中に収まる。
その全てを抱き潰してやりたくらいに、今、お前を求めてる。
「……、好き、です。 好き、高瀬さんのこと好き。 ほんとに、高瀬さんは、ほんとに?」
「ああ、好きだよ」
「だ、だって! 生意気で可愛くないのに? 意地張ってばっかりで仕事もできなくて、美人でもなくて……っ」
「ああ、何だっていい、俺はお前が可愛い」
「吉川さんや間宮香織の方が、かわ、可愛い……っ、のに?」
(ああ、こいつ、ほんと)
ほんと、どうしようもねぇやつ。
強くて弱い、バランスの悪さから目が離せない。
「バカか、何度も言わせんな。 俺は、お前が可愛い」
「うう……」
「いちばん、可愛い」
震える華奢な肩が、あんまりにも小さくて。
あんまりにも、大切で。
抱き締める力を強めた。
女を抱きしめて、離したくないと思うこと。
そんな感情が、俺にも存在したのか。