大嫌いの裏側で恋をする


***


帰り道、飯食ったり手を握ったり、信号待ちながらキスしたり。
しながらも、己を律して自宅近くまで戻ってきたわけだ。 家の前まで送ると言えば、素直に案内されるもんだから、ちょっとテンション上がるじゃねーか。
ずっと、微妙に聞くの遠慮してたわけだから。
で、石川の住んでるマンション近くまで送ってきてギリギリ日付変わんねぇかなくらいの時間。 シートベルト外す、膝の上に置いてたカバンを持ち直す。
そして「今日は」と、口を開く。
一連を見てた俺は、まあ、なんというか。
余裕ぶる精神力が尽きたと言うべきか。

石川が「ちょっと待って下さい」だとか、色々言ってんのも聞こえてんだけど。
頰や首筋へのキスから始まって、押しのけようとする手首を掴みながら、こいつが座る助手席のシートを少し倒す。

「ちょ、え? ……んっ!?」

覆いかぶさり、驚いた唇の隙間から舌を割り込ませ、熱い口内を刺激すれば次第に声と力が弱くなる。

「ん、高瀬……さ、ん」
「帰んの?」
「だ、だって、そんな、いきなり」

ぐっと押しのけられる。
真っ赤になって、目を瞑って。

(拷問か、いや生き地獄ってやつか、生殺しとかだっけか)

思いつく全部を頭に描いて、深くため息、いやほぼ深呼吸に近い。
とにかく深く息を吐き、気持ちを落ち着かせる。

……いきなりと、言われりゃ、いきなりだ。
しかも毎日仕事で会ってはいたけど2人で出掛けたのははじめてだ。
やりたいときに、やってしまいたいのが男の性だとは思うけど低評価の中『やっぱり高瀬さんって手が早い』とか思われんの、どうだよ、無理だろ。

「………………すげぇな、お前。 待たされんの経験ねーわ俺」

ハンドルに肘をつきながら何とか絞り出した声が車内に響く。
ふぅ、と熱くなった身体を冷ますように、もう一度息を吐く。

「え?」
「……なんだよ、こっちはこれ以上評価下げられちゃたまったもんじゃねーんだよ」

ふん、と目をそらしながら倒してたシートを元に戻してやる。
気をつけて帰れよ、と。 理性総動員で言ってやった。

「あ、あの、いえ、はい」

微妙な返事。頼むから帰るなら早く帰れ。
とも言えず。

「……どうした?」

聞けば、途端に顔を赤くして下を向く。
そして放たれたセリフが、こうだ。

「な、なんでもないんです! ただ、帰るってなったらちょっと寂しいな……とか思ってしまったり」
「……お前な」
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