大嫌いの裏側で恋をする



高瀬さんが、付き合ってなかった。と言い張る間宮香織に対してだって、私はチリチリとした気持ちがあるのに。

「いい、別に。 俺の問題」
「え?」
「この歳になったら、そりゃ期間の差はあっても誰にでも過去の相手くらい、いるだろが」

はい、と曖昧に頷きながら言葉の続きを待つ。

「……俺は、確かに女はいたけど多分恋愛はしてなかったんだろーな」
「はい?」
「だから、お前の過去と張り合えるもんがなくて苛立ってるだけだ」
「えっと……」
「俺にも、昔惚れた相手がいたんならお前の話をもっと穏やかに聞けたかもなって話」

まっすぐな言葉が、胸を締め付ける。
こんなにハイスペックな人が、私相手にこんなセリフを言うだなんて。

「そ、そんな、大げさ……」
「ああ、大袈裟だろ? 責任取れよ」
「はい、責任……って、責任?」
「欲しいと思った女相手に自分がどう出るか俺も検討つかねぇから、まぁ頑張れよ」

からかうような声とは裏腹に、見つめてくる瞳は鋭くて。
まるで私は射抜かれたように動けない。

小さなテーブルに置かれた2人分の食器は、高瀬さんが私の手首を持った振動でカチャカチャとぶつかり合い音を出す。

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