大嫌いの裏側で恋をする
「ご、ごめんなさい急いでおります」
いかにもガラの悪そうな数人組がジリジリと寄って来るけど、ほぼ泥酔状態っぽいのを良いことに振り切って歩き出す。
けど……、
場所的になんというか繁華街というか、歓楽街が近かったみたいで。
色めいた人々が、こう、目のやり場に困るほどイチャついてたりするもんだから。
……とりあえず、駅どっちだ?
高瀬さんに手を引かれていたからか道がハッキリわからない。
「……ぎゃ!!??」
グイッと背後から手首を掴まれ、再び女らしさのかけらもないこえをあげてしまう。
「何だ、その気の抜ける叫び声」
「た、たた高瀬さん!!!」
振り返り勢いよく高瀬さんの両腕を掴む。
口をパクパクとさせていると、呆れたように大きなため息をつかれた。
「勝手に飛び出すなよ、この辺、女のいる飲み屋とラブホ街近いから。 さすがにお前でも危ないわ」
「そ、そう、そうでしょうねぇ! びっくりした」
「あと、これは返す」
そう言って渡されたのは一万円札。
「今日は俺が付き合わせたし、そもそも後輩の、しかも女から金取るかよ」
「で、ですけどかなりの醜態を晒して」
「いい酒のアテになった」
そんなセリフを吐きながら、高瀬さんは笑った。
その笑顔が、意地悪でもなく、ついさっき知った幼さ残る笑顔でもなく。
……ただ、優しい笑顔で。
私は何故か、それを直視したくなくて。
視線を逸らして押し黙ってしまう。
けど、私の葛藤なんて知りもしないで「こっち来い」って、また手を引かれて歩く。
なんか、こんな雰囲気の中で、手なんか繋がれたりしたら妙に気恥ずかしい。
手のひらの体温が急激に上がってる気がして、気付かれてなければいいなって願いながら歩いてた。
駅前まで戻って、高瀬さんは掴んでた私の手を離して、すぐにタクシー乗り場のベンチに座った。
離された手が、夏の夜だというのに冷んやりと感じるのは何故だろう。
「ちょっと待ってりゃくるだろ」って言ったきり何も言わないもんだから、とりあえず、高瀬さんの前で立ち続けてると。