大嫌いの裏側で恋をする
ネクタイに触れる指先から視線を上にして高瀬さんの顔を見ようと思った。
その時、彼の指が額に触れ、くしゃりと前髪が乱される音がした。
眉が隠れる程度に切り揃えた癖のある前髪を、ドライヤーで整えてナチュラルに左に流す。
それが、どれだけ大変なことかわかりますか。 なんて声にせず訴えながら髪をかきあげられクリアになりすぎた視界。
そこに映る彼の憎らしいほどに整った顔。
「……熱はなさそうだけど、目が腫れぼったいな」
その声は小さく、けれど優しくて。
まるで、あの夜のように。
「……え!!??」
「無理すんなよ、じゃ行くわ」
多分赤く染まってる私の頰。それを見てなのだろうか、瞳を細め小さく笑い声をあげながら去っていく背中。
「いってらっしゃ、い……」
きっと、届いてない小さな声で何とか口にした。
いつも通りで、少しだけ違う朝。