大嫌いの裏側で恋をする
「で、電話出ないんですか」
「いい。急ぎじゃない」
だから続き話せ、と促されて、再び口を開きかけると。
「……チッ」
また、鳴り始めた高瀬さんのスマホ。
ゴメン、と高瀬さんは短くジェスチャーして着信に応える。
「何すか」
「……は?いますけど」
そこまで、不機嫌そうに答えて。
驚いたように、大きく目が見開かれる。
やがて、その目が、私を見る。
「……いや、いい。本人と話しますんで」
淡々とした、声。
私は、その着信の相手が誰なのか。それが予想できてしまって咄嗟に下を向く。
「あー、はいはい、わかりましたよ……って、はあ!?」
突如大きな声が高瀬さんから出て、
「誰が!アンタがこいつとヤる為に取った部屋使うかよ!!!!」
「え!?」
思わず大きい声が出た。
(考えるまでもない!)
どう考えても相手は秋田さんで、高瀬さんは何を聞いたと言うのか。
いや、何となく想像ができて、ますます俯く。
「……あー、石川」
通話を終えたのか、スマホを操作しながら高瀬さんが、大きなため息の後私を呼んだ。
「……っ、はい」
そうだ、俯いててどうする。
私が、したことだ。
間違いなく、私が逃げた結果じゃない。
自分から告げるのと、先に知られてしまうのと。どっちかと言えば恐ろしいのは知られてしまう、この今の状況なんだけど。
なんて、ちょっと弱気になりながら唇を噛みしめ第一声を考える。
その沈黙の間に目の前の高瀬さんは、
表情なく前髪をかきあげて「とりあえず、乗れ。ビルの中だと誰の目があるかわかんねぇだろ」と。
いつも高瀬さんが使用してる白い営業車を指して。
そう言った。