大嫌いの裏側で恋をする
SS『奥田さんのお楽しみ』物語序盤頃のお話
友人が、どうやら恋に目覚めたようだ。
俺は、その友人――高瀬を朝食がわりの缶コーヒー片手に眺めた。
同期の高瀬とは就活中から互いに見知っていて、最終面接で同じグループになった。
俺はニコニコと笑ってその場を騙し騙し切り抜けるタイプの人間だと思うけれど、この友人は真逆の男だった。
目上の人間に真正面から吠えるわりに、人を惹きつける力も備えているのか敵を作ることは少なく。
(ま、要は俺とタイプのちがう世渡り上手という)
「くっそ、あの女どうやったらあんなにデスク散らかるんだっつーの」
高瀬のデスクに近づくと、そんな悪態が聞こえる。
隣ではパソコンの画面に集中した女の子の姿。
高瀬の声なんて、聞こえてなさそうで俺は吹き出しそうになる。
「……おい、奥田今笑ったか」
「え?あはは、声に出ちゃってた」
吹き出しそうになる、ではなく。どうやら吹き出していたらしい。
「出ちゃってた、じゃねーよ。何、お前も今から出んの?」
「そうだよ、また関西」
「泊まり?」
「いや、日帰り」
「あー、それ1番ダルいやつな」
小さな声で会話を進めてるあいだに、高瀬は自分と、そして隣の女の子――石川さんのデスクを整え荷物をまとめて立ち上がる。
俺は立ち上がった高瀬に耳打ちする。
もちろん、どんな反応が返ってくるのかわかった上でだけど。
「甲斐甲斐しくなったね、お前も」
「っ!!」
高瀬は息をのんで、振り返る。
想い人を。
「大丈夫大丈夫、聞こえてない。彼女、やり出したらまわりの声聞こえない子だからね」
「……言われなくても知ってるけど」
「ははは、だよね、知ってるよね」
「お前な……日帰りの関西がダルいからって俺で遊んでんなよ」
ブツブツと文句を言いながらも、目はまだ彼女を追ってる。
(いまいち気分の乗らない1日の始まりに、高瀬をからかって楽しめる日がくるなんてね)
まさか、想像もしなかった。