大嫌いの裏側で恋をする
しつこいな、と高瀬が呟く。
一階に到着し、ドアが開くと、すぐに高瀬はエレベーターを出る。俺はその背中に続く。
「うまくいってんなら、いーだろ。幸せってことで」
「もし別れたらどうするの?」
高瀬が立ち止まる。
そして肩を上下させる大きな呼吸。
「なあ、お前マジで余計なことすんなよ?あいつは仕事上のペア。やりやすい。好きだとか嫌いだとかの前に、そういうことだ」
「まあ、貴重ではあるよね、お前と張り合えるし」
「そ。石川辞めたら多分俺課長に切られるわ」
「リアルだね」
軽く笑い合って、一旦途切れた会話。
駅までの道のり、まだまだ暑い陽射しにうんざりしながら。
俺は思いついたように声にした。
「俺はお前と違って略奪も抵抗ないから、石川さん狙ってみてもいい?」
「は?」
「わりと可愛い顔してるよね」
「ふざけんなよ」
「ん?ふざけてないよ」
なんて、からかってるうちに駅前だ。
ごめん、嘘嘘。と笑ってみようと思った俺のみぞおちらへんに。
「〝わりと〟可愛いくらいで手ぇ出してみろ、殺すぞ」
「…………っ、はは、目が覚めた」
「ああ、やっぱ寝ぼけてたか?」
軽くない一発。
けっこう痛い。
「お前なんかに近づかせねぇわ」
「それ」
「あ?」
「お前絶対無理だよ、石川さんが彼氏とうまくいってようが、いってまいが、お前絶対我慢できなくなるよ」
もう長い付き合いになるけど、こんなお前は見たことないよ。
「……ったく、何が言いたいんだよ。今日は妙に突っかかりやがって」
「この間、吉川さんと石川さんとお昼一緒に食べたんだよね」
「……なんだ、それ。聞いてねぇけど」
うん、言ってないし、わざわざ。
……って答えたらまた殴られそうだし言わずに続ける。