大嫌いの裏側で恋をする
「わからないことを、ひとつずつ理解していけばいい」
「……はい」
「お前の場合しかも、あれだ。 環境が変わったし、喪失感から仕事に意識が集中し過ぎなのかもしんねぇしな」
「喪失感?」
「……あー、悪い。 余計なこと言った」
「え? 余計なこと?」
次こそ何を言いたいのかわからず、首をかしげる。 額に置かれていた手のひらが移動してガシガシと頭を撫でた。
というか、グチャグチャにされた。
「いや、だから、そんなに経ってないだろ、まだ。 あれから」
「……あ!」
そっか。
もしかして、悠介のことを言ってくれているんだろうか。
気まずそうに目を逸らしながら、頭を撫で続ける、手のひらの暖かさが身体中に温もりを教えてくれる。
「なんですか、高瀬さんのくせにそんな気遣われたら、気持ち悪いです」
今度は嬉しくて、涙声なのに。
照れ臭くて、出てくるのは可愛くないセリフばかりだ。
「この間から何度目だ、その気持ち悪りぃっての」
「私だってさっき高瀬さんに言われましたけど」
ああ、凄いな。
自然と涙が消えて、笑顔が出てくる。
「……薄情なんでしょうかね、色々ここのところ気持ちが忙しくてそんなに感傷に浸るまもありませんでした」
「だったら、いーけど」
そう言って頷いた高瀬さんを改めて見つめる。
悠介と別れた日も、今も。
心の中で色んなものがぐちゃぐちゃに混じり合っている時、高瀬さんがいてくれた。
話すと、その混沌としたものが綺麗に色を取り戻していくような、感覚になる。
友達に聞いてもらうのとも、吉川さんに聞いてもらうのとも、違って。
素直に導かれていくような気分になるのは、どうしてだろう。