大嫌いの裏側で恋をする
恋の始まり
恋の始まりって、とんなだっけ?
片想いって、どんな感じだっけ?
もう思い出せもしなくって、私は頭を抱える。
「あ、高瀬さんお疲れ様です~」
パソコンを睨みつけていた私の耳に届いたのは、同じフロアにいる男性社員が声にした名前。
「おう、お疲れ」って続いた、その声は間違いなく彼のものだった。
ああ、もう待ってよ。
声だけで、背中に感じる存在だけで、それだけで息が詰まりそうになる。
こんな想いを、どう心の中にしまっていたのか?
これまでを思い出したくても全然浮かんでこない。
自覚した途端こうなる?
(おかしい)
もう26だし、もちろん初めての恋でもない。
今までそれなりに彼氏だっていて。
純粋ぶるつもりなんてカケラもないのに。
……なのに、なんで、こんなに。
「おい、お前何無視してんだ」
コツン、と後頭部に軽い衝撃。
振り向くと高瀬さんの手が拳を作って。
衝撃は、それが私の後頭部を狙ったせいだ。
「ぼ、暴力反対です!」
頭をさすりながら抗議する私を呆れた目が見下ろしてくる。 そして。
「お前もう飯食った?」
なんて。
繋がらない会話にも、私はせっせと答えたいと頭をフル回転させるのだから。
……恋とは凄い。