月がキレイな夜に、きみの一番星になりたい。
先生も面倒な親に関わりたくないのか、
特に反対することもなく受けいれていた。
放課後や休日も出歩くことを許してもらえず、
この部屋から出ないように言いつけられている。
「モイラ、私はもう……
私を大切に思ってくれる人たちを悲しませたくない」
だけど、それと引きかえに自由を失うことは
苦しくてたまらない。
先天性無痛症には、根本的な治療法がない。
わかっているのは、遺伝が原因であるということだけ。
この病気は汗をかけずに、
身体に熱をためこんでしまう無汗症を
合併することが多いのだけれど……。
私は無痛症だけだった。
このタイプの無痛症は、
日本にたったの数十人しかいな いのだとか。
病気のサインである痛みに気づけないで、
受診しない人が多く、寿命も短いと言われてる。
だからお父さんとお母さんは、
できるだけ私を危険から遠ざけたいんだと
思うんだけど……。
「怖がってばかりいたら、
私は永遠に囚われたままだ。
部屋の中で一生を過ごすなんて、絶対に嫌……」
モイラは「自由、自由」と、私の言葉を繰り返す。
「お父さんとお母さんを悲しませてまで、
外の世界で自由に生きたいと思うことは……
いけないことなのかな?」
その問いに答えてくれる人は誰もいない。
私は目を伏せて、膝を抱えた。
そのとき、バルコニーに人影が見えた。
えっ、ここ2階なのに……。
ベッドから降りて、窓のほうへと近づく。
少しだけ空けてあった窓から吹きこむ春の夜風に、
ふわふわと揺れる薄いレースのカーテン。
「……誰?」
恐る恐るカーテンを開けると――。
まっ先に視界に広がったのは、
雲に遮られることなく輝く黄金の月。
その月光を背にして、夜の闇を思わせる黒髪に、
鋭利な刃物のような切れ長の目の男の子が立っていた。
見た感じ、高校生だろうか。
着崩された白いワイシャツにグレーのズボンを
身に着けていて、学校の制服のように見えた。
どうしよう、あの人不審者だよね?
だ、誰か……。
そうだ、お父さんとお母さんを呼びにいこう!
そう思って、ゆっくりあとずさったとき――。
男の子が鋭い眼光をこちらに向ける。
「すぐに出ていく、だから騒ぐな」
わっ、すごく低い声……。
突然、話しかけられて、身体がすくむ。
私は思わず、胸の前で両手を握りしめた。
怖いはずなのに、どうしてだろう。
特に反対することもなく受けいれていた。
放課後や休日も出歩くことを許してもらえず、
この部屋から出ないように言いつけられている。
「モイラ、私はもう……
私を大切に思ってくれる人たちを悲しませたくない」
だけど、それと引きかえに自由を失うことは
苦しくてたまらない。
先天性無痛症には、根本的な治療法がない。
わかっているのは、遺伝が原因であるということだけ。
この病気は汗をかけずに、
身体に熱をためこんでしまう無汗症を
合併することが多いのだけれど……。
私は無痛症だけだった。
このタイプの無痛症は、
日本にたったの数十人しかいな いのだとか。
病気のサインである痛みに気づけないで、
受診しない人が多く、寿命も短いと言われてる。
だからお父さんとお母さんは、
できるだけ私を危険から遠ざけたいんだと
思うんだけど……。
「怖がってばかりいたら、
私は永遠に囚われたままだ。
部屋の中で一生を過ごすなんて、絶対に嫌……」
モイラは「自由、自由」と、私の言葉を繰り返す。
「お父さんとお母さんを悲しませてまで、
外の世界で自由に生きたいと思うことは……
いけないことなのかな?」
その問いに答えてくれる人は誰もいない。
私は目を伏せて、膝を抱えた。
そのとき、バルコニーに人影が見えた。
えっ、ここ2階なのに……。
ベッドから降りて、窓のほうへと近づく。
少しだけ空けてあった窓から吹きこむ春の夜風に、
ふわふわと揺れる薄いレースのカーテン。
「……誰?」
恐る恐るカーテンを開けると――。
まっ先に視界に広がったのは、
雲に遮られることなく輝く黄金の月。
その月光を背にして、夜の闇を思わせる黒髪に、
鋭利な刃物のような切れ長の目の男の子が立っていた。
見た感じ、高校生だろうか。
着崩された白いワイシャツにグレーのズボンを
身に着けていて、学校の制服のように見えた。
どうしよう、あの人不審者だよね?
だ、誰か……。
そうだ、お父さんとお母さんを呼びにいこう!
そう思って、ゆっくりあとずさったとき――。
男の子が鋭い眼光をこちらに向ける。
「すぐに出ていく、だから騒ぐな」
わっ、すごく低い声……。
突然、話しかけられて、身体がすくむ。
私は思わず、胸の前で両手を握りしめた。
怖いはずなのに、どうしてだろう。