君のくれた奇跡。
「、、私、頑張ります。…」
私は、茅ちゃんにそう言った。
はっきりと強く、でもどこか迷いのある声で。
「やってみなきゃ、始まらないからね、」
私が音楽室を出る時も、茅ちゃんは暖かい目で私を見送ってくれた。
「まずは、伝えなきゃ、、」
するべきことは分かっているのに、私は何故か、どうやって言えば良いのかが分からなかった。
このまま病気のことを言って、2人は分かってくれるのかな。
突き放したり、されちゃうのかな。
2人はそんなことをしないって分かっていたのに、私は勇気を出せなかった。
「まだ、まだ、言えない。いや、言わない。」
――、これが、私の出した本当の答え。
最後まで、傷付けたくない。
2人には、最後まで笑っていて欲しいから。
「泣き顔なんて、見たくない、…」
私は思わず心の声をぽろっとこぼしてしまった。
だから、言わないんだ。
そう決意して、教室へと歩き出したその時。
「はあ、はあ、…」
階段の方からそんな荒い息が聞こえた。
誰だろ、
私は階段を覗いた。するとそこには、肩で息をした桜優と七瀬くんがいた。
――会っちゃった、
私はドキッとした。
さっき、泣きながらあの場を去っちゃったから。
普通に、行けばいいんだ、
「桜優、七瀬くん!」
私は気まずさを心の中にしまって、2人の元に駆け寄った。
「結鈴、」
「相川さん、、」
2人は一瞬気まずそうな顔をしてから、優しく笑ってくれた。
「もう、びっくりしたじゃん!!」
「いきなりどっか行くから、、」
呆れながらも優しい2人の顔。
この笑顔を大切にしよう。
私は、笑顔を見てそう思った。
「じゃあ、、帰ろう!」
急いで帰り、桜優と手紙交換をしながら、授業を終え、
昼休みになった。
「七瀬くん!、これ、卵焼き、、」
私は迷いながらも卵焼きを渡した。
「お!美味そうじゃん!!」
そう言って口に頬張った七瀬くんの顔は、あの、優しい笑顔になっていた。
「ありがとな!」
周りの男子に声を掛けられながらも、私に笑みを浮かべてお礼をしてくれた。
「すごいね、、ほんと、七瀬は、」
「うん、、」
桜優が見とれているのにつられて、私も見とれてしまっていた。
5、6時間目の間も、あの笑顔が頭から離れなかった。
「6時間目、長い、…」
「でも、今から部活だよ!ほら行こう!!」
私が疲れて弱音を吐いている時はいつでも、桜優は元気を出させてくれる。
桜優が居て良かったなあ、、
私は桜優の存在を噛み締めながら、音楽室へと向かい、練習を始めた。
「結鈴、音ちゃんと出てるー?」
「出てるよ!いつも通りね!」
……、嘘をついてしまった。
本当は、息が前より吸えなくて、音が小さかった。
仕方無いよね、桜優の笑顔を守る為だもん。
そんな風に隠しながら、練習を終えた。
「みんな帰ろう!」
みんなで話しながら、教室へ戻る。
私はこの一時が、とても幸せだった。
みんな笑っている。自然に。
いつもの風景だったのが、更に特別に思えた。
私は、あと何回、この景色を見れるんだろうか。
もしかしたら、これが最後なのかも、知れない。
でも私は怖くなかった。
何故かはわからないけど、多分もう未練は無いんだと思う。
桜優には、もっと仲良くしてあげられる子が居ると思うから。
七瀬くんには、きっと他の好きな人が居るから。
だから、私は怖くなくなったんだと思う。
そんなことを考えているうちに、とっくに帰宅時間になっていた。
「じゃあ、バイバイ!」
「うん、バイバイ!」
桜優はまた塾かあ。
そんなことを考えながら、私は家へと歩いた。