君のくれた奇跡。

「先生、、本当、何ですか、、?」

お母さんが震える声で問い掛けた。

先生は、俯き加減で頷いた。

「そう長く、、生きることは、困難かも知れません、」

私は、この時耳を疑った。

いや、嘘だと信じたかった。

でも私の頭は、それが真実なんだとしか、考えてくれなかった。

……何で私なんだろう。

世界にはこんだけたくさんの人がいるのに。

私じゃなくても、良かったはずなのに。

私が何をしたっていうの?

私は、何もしてない、いや、何も出来てない。

まだ何も、、出来ていないのに、なんで私の命を簡単に奪おうとするの、、?

考えても考えても、涙が溢れるだけだった。

私の目から涙が零れる度、お母さんは震える手で頭を撫で続けてくれた。

「症状は、喘息と似ていますが、咳、吐き気、息切れ、呼吸困難などで、
悪化していくと、少し動くだけで息切れがするようになり、歩くのも難しくなり
最悪、自発呼吸が出来なくなってしまいます、結鈴さんの場合、少し進行が見られていて…」

「……たくない、聞きたくない…!!」

私は現実を受け止め切れずに、思い切り叫んで思い切り走った。

必死に走った先は、病院の庭だった。

ああ、走ったら、駄目なんだ。

肺が悪いんだもん。当たり前だよ。何してんの、、。

私は酷く息を切らしながらベンチに座った。

「まだ、、元気なのに、、息も、吸えるのに…!何で!!」

でも、自分自身、分かっていた。

咳が酷くなっていたこと。

前よりも息が切れるのが早くなっていたこと。

たまに息苦しさを感じていたこと。


……でも、受け止めたくなかった。


受け止めてしまったら、怖くなるから。

この先の未来を考えて、いや、私には、未来が無いんだ。

死んでしまうんだ。すぐに。

それが分かっていても、事実から目を背けたくて。

だって、未来のない世界を、想像してしまうから。

私は、お母さん、お父さん、桜優や、七瀬くんを置いて

1人で天国に行かないといけない。


「また、みんなに、迷惑掛けるの、、?…」

そうだ、もう関わらなければいいんだ。

桜優や吹奏楽部のみんなや七瀬くんに、

関わらなければ済むんだ。

「なーんだ、簡単なことじゃん、っ…」

私は、関わらないことを心に決めた。

でも涙は、溢れるばかり。

「何泣いてんだろ、泣いても、何も変わらないのに、、。」

私はひたすら泣いて、ひたすら心の中で叫んだ。

泣いているうちに、沢山の疑問が頭に浮かんだ。

でも、どうやって関わらないようにしたらいいんだろう。

どうしたら、みんなに心配をかけなくて済むんだろう。

そうだ、…私が何も言わなければいいんだ。

誰とも話さずに、見ずに、考えずにしてればいいんだ。

どうせ死ぬんだから、何かあっても助けを呼ばないでじっとしてればいいんだ。

「それでいいんじゃん。」

そう自分に言い聞かせているうちに、涙も、感情も、

全てが私の体から無くなっていた。

「結鈴…?大丈夫、、?」

「大丈夫だよ。」

私を見つめてくるお母さんの目は、真っ赤に腫れていた。

泣いたんだろう。沢山。

私が病気になんかなるからだ。

「ごめんなさい。お母さん。」

私はお母さんに、無感情で言った。

悲しい顔をして、心配を掛けてしまわないように。

「いいの、結鈴は謝らなくていいの…、じゃあ、今日は家に、帰ろっか、。」

私は小さく頷いた。

多分、まだ先生が話したいことはあったんだろうな。

私を気遣って、お母さんにだけ話したんだろう。

何で私はこんなに最低なんだろう。迷惑を、掛けるんだろう。

私は心の中で弱音を吐きながら、家へと歩き出した。
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