君のくれた奇跡。

「ただいま。」

私は、表情を作らずにお父さんにただいまを言った。

きっと、慌てて帰って来たんだろう。

頭はボサボサで、息が上がっているお父さんを見て、私は悟った。

「結鈴、おかえり。大丈夫か?、、無理だけは、しないようにな、」

「そうよ、何かあったら、言いなさい。、」


……私が、倒れたからこんなこと言ってくれてるのに、


私は怒りを覚えた。

大丈夫なわけないじゃん、何かあったら言うなんて、出来るわけ、ないじゃん。

元からマイナス思考な私は、病気のせいで更にマイナス思考になっていった。

私は、お母さんが作ってくれたほんの少しを食べて、ベッドに入った。

ベッドに入っても、浮かぶ顔は、七瀬くんの笑顔。


……馬鹿みたい。私、


七瀬くんが笑ってくれただけで、1人で舞い上がって。

今日会ったばかりだよ?まだ、なんにも知らないんだよ?

なのに、もしかしたら、七瀬くんは気に掛けてくれてるんじゃないか、って、

どこか期待してしまっていた自分がいた。

「思い出さない、って、決めたのにな。」

私は、頭の中で七瀬くんのことを考えるのをやめた。

でも、次々と顔が浮かんで来そうになる。


…、桜優の嬉しそうな顔。


…、、お父さんお母さんの、幸せそうな顔。


…、、、七瀬くんの、優しい顔。


どんな顔も、笑顔で。

私は、その笑顔を汚さないと決めた。

だから、関わらない。

これが正解、と私は問題の答えを作るように、誓った。


「――、げほげほっ」

酷い咳と少しの息苦しさが、私を更に追い詰めてくる。

咳の辛さ、息苦しさから逃げるように、私は眠りについた。
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