mimic
「これ、ご祝儀に代わりに持って帰ってください。俺金とか興味ないんで」
「は⁉︎」
「見返りは、今後一切小夏に関わらないこと、に変えてください」
「……勝手にしろ!」


怒号みたいに吐き捨てたあと、去ってゆく足音と勢いよく閉まる玄関のドアの音が聞こえた。

放心して、ドアの前にぺたりと座り込む。


「小夏ちゃん?」


ゆっくりとドアが開いて、寄っかかっていたわたしはスローで地面に倒れた。

床にこつんと頭をつけると、しゃがみこんだ海月がわたしの顔を覗き込む。


「聞いてた? 小夏ちゃん」


そしてこめかみに流れる涙を、指先で器用にすくった。


「……っ」


反動をつけるために地面に一度頭を強く打ちつけてから起き上がると、わたしの奇行に驚いて目を丸くする海月の頬に、軽くビンタ。


ぱちんと乾いた音が、居間に小さく響いた。


「俺、君に惚れちゃってんだよ。最初っから」
「っもう騙されないから!」


何度も何度も騙されて、最後に一番大きな嘘が暴かれた。
海月が、唯ちゃんを裏切ったこと。それが嬉しいと感じた、自分自身。


「かなり、本気だよ。もうヤバいくらい本気。仕事も全部、失ってもいい」


三日月みたいな目に、えらく惹きつけられる。
なんかもう、一緒にいるだけでわたし、泣きたくなるよ。


「っ海月……」


これが、本当に好きっていう気持ちなのかな。
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