mimic
「わたしも、初めて見たときから。あなたのことをもっと知りたいって、思ってた……。だから、あなたに裏切られて、すっごく傷ついた……でも、」


わたしは喉を震わせて続けた。


「あなたがいなくなるのは、もっと、かなしいって思ったの……」


わたしの体を支えて立ち上がると、海月はぼんやり空を仰ぐ。


「わあ。今、まともに食らったわ」
「……へ?」
「これからは俺の役割だから。抱きしめるのも、小夏の全部を、愛するのも」


目をむいている隙に、ちゅっと短いキスをすると、心得顔でわたしを見つめた。


その笑顔に、眼差しに。
どんどんハマっちゃいそう。


「庭仕事も俺に任せて」
「……手伝ってくれるだけでいい。これからは、自分でやるから……なんでも」


庭の手入れまではまだ無理でも掃除くらい自分でするし、おじいちゃんが遺してくれたこの家をちゃんと管理して、これからはひとりでなんでもやっていく。

それで、隣に海月がいてくれたら……。


「そっか、喜んで。」


訳知り顔で微笑んだ海月は、わたしの頭頂部をぽんと撫でた。


「じゃあ、これからちょっと取りかかろうかな」シャツの袖を捲り、海月が言った。
「えっ、今から⁉︎ そ、そんな格好で……?」


海月は今日もワイシャツにスラックス姿。こんなんで脚立に上ったらすぐに汚れるって。


「ダメかな」
「ダメ、っていうか……、ってかさ、なんでいつもその格好なの? 仕事のときは違うでしょ?」
「え、なんで、って……」


そっぽを向いた海月は、ぽり、っと頭を掻く。


「あいつが、好きだったんだろ? こういう身なりの男が好みなのかな、って。思って……」


そこで言葉を切ると、海月は大きな手のひらで口元を覆った。
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