mimic
家に帰るやいなや、海月は庭で棚の製作に取りかかった。
わたしは昨日と同じように、家のなかからその作業を見ていた。

ビニール紐で、棒と枝を接合している。
海月の作業はそつがなく滑らか。


「風で飛ばないかな? ここ、海風強いから」
「うーん、しっかり固定すれば大丈夫じゃない?」


葡萄の木には、飽きるくらいに触れるくせに。わたしに触れてこないことには、どんな理由があるのだろうか。


「よし、今日はここまでにしよう」


海月は目を細め、葡萄の木を上から下まで確認する。

お疲れさま、と小さく囁いたわたしに目配せし、首をすくめて微笑んだ。


「楽しみだね、葡萄」
「うん、楽しみ……」


ここでのわたしたちの生活は、いつまで続くのかな?

葡萄がなるまで? 葡萄がなって、収穫して、ワインにして飲み干して。
そうしたら、突然わたしの日常に現れた海月が、泡のように消えてしまいそうで怖い。
いつか、このささやかに幸せな日常が、ガタガタと崩れそうで怖い。
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