mimic
「仕事終わってから来たので。すみません、遅くなっちゃいました」
「あ、そ、そうなんですか」


あんな唯ちゃんの、軽い調子の頼みごとを律儀に守るなんて。
逆にこっちが申し訳ない。


「それは、お忙しいのにわざわざすみません」
「いえ、お客様ですので。ちなみに菅野さんは今夜、仕事が忙しいのでここに来られないそうです。伝えてくれ、とも頼まれました」
「は、はあ……重ね重ねすみませんでした」


このご時世に飛脚とは。手の込んだことしてくれるわ。
しかも一回会っただけの式場の庭師さんに勝手にこんなこと頼むなんて。厚かましい……。

ぺこりと頭を下げると、床に置いたコンビニのビニールが目に入った。
たくさん買いすぎちゃった。唯ちゃんが来ると思ったから。


「あの、もし良かったら……」


言いかけて、わたしは真正面に立つ相手を見た。
わたしが縁側に立ってて、目線が同じくらいの高さになる、ってことは、けっこう高身長なんだな、と思った。
赤茶けた長めの髪の毛が、ふわふわと夜風になびく。


「これ、飲みますか?」


ビニール袋を目の高さで掲げると、多野木さんはきょとんとした。
そしてやや逡巡するような間があってから、


「喜んで」


柔和に微笑んだ。
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