mimic
× − × − ×


日曜日。
わたしが文房具屋で再就職用の履歴書を買って帰ってくると、朝食を済ませてからずっと庭をいじっていた海月が忽然と姿を消していた。


「海月……?」


庭をつぶさに見渡す。
さっきまで、庭に散在していた肥料の袋も、枝と棒をくくりつけるビニール紐も。なにもない。すべて、片付けられている。


「ど、どこ……行ったんだろ……」


居なくなっちゃった……?

わたしは肩にかけていたバッグを乱暴に下ろし、なかから携帯を取り出した。一緒に出てきた履歴書が床に落ちたけど、拾ってるいとまなどない。

海月に電話をかけようとしたときだった。
メッセージの受信を知らせる、短い電子音が鳴った。


「ゆ、唯ちゃん……」


画面に表示された文字を読む。

〝望み通り、もうお前には関わらない〟


「__ただいま、小夏ちゃん」


ハッとして、わたしは俊敏に振り向く。


「海、月……おかえり」
「うん。ただいま」


海月は笑顔で、両手にビニール袋を持ち、また縁側で靴を脱ごうとしている。
なかなか脱げずにえいえい、と両足を交互に振る。ビニール袋を下に置いて、手を使えばいいのに横着していた。


「そ、それは……?」


半透明のビニール袋のなかが透けて見える。ワインと、もうひとつはピンクの花束。


「棚が完成したから、お祝いしよう」
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