mimic
やっぱり庭にスニーカーを放り投げた海月は、家に入り、ビニール袋を目の高さで掲げた。
袋からワインを取り出すと、テーブルの上に置き、「こっちはお花好きなおじいちゃんに」と言って、居間の角にある仏壇に向かった。


「お線香は、この引き出しのなかかな?」


仏壇の前に座り、ピンクと白のグラデーションに彩られた花束を膝元に置く。

お線香の煙が目にしみる。
おじいちゃんの前で手を合わせる海月の姿が、涙で潤んで見える。


「どうしたの? 小夏ちゃん」


立ち上がった海月が、不思議そうにわたしを見る。溢れる涙を手の甲で拭き、呼吸を整えた。


「小夏ちゃん?」


わたしの正面に立ち、海月は緩やかに首を傾げ、顔を覗き込む。


「わたし、ね」
「うん」
「はあ……」


わたしは覚悟を決めるように、大きく息を吐いた。


「いろいろ、不安なのかもしんない……」
「不安って?」


失うのが怖い。
大切な人を。

裏切られるのが怖い。
聞くのが怖い。

このままずっと、一緒にいてくれるのか、って。


「……はあ……」


泣いてるせいで呼吸が乱れる。
< 51 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop