mimic
「君は知らないかもしれないけど。ただ欲しがったり、奪ったりするだけが、愛情じゃないから」
「……へ?」
「あんとき初めてだったって、なんで俺に言わなかったの? 小夏ちゃん」


口を半開きにするわたしを困ったように見て、両手を広げた海月はすっぽりと包み込むように抱き寄せた。


「それなのに俺、かなり強引だったから。けっこう反省したっていうか」


胸に、顔を埋める。
躊躇いがちに背中に回した海月の腕は、まるで葡萄のつるのように、わたしの体にまとわりつく。


「そりゃ俺だって、自制するでしょう」


わたしは自分から、海月をソファに誘導した。
信じられないくらい積極的で、すごく恥ずかしかったから、むしろ今度は顔中真っ赤だよ、って、からかってくれた方が気が紛れるのに。

海月は真顔でわたしを見つめる。


「……ね、なんか言ってよ」


ソファに座った海月の上にまたがる。


「可愛い」


わたしの腰をさすった海月は、唇同士が触れ合いそうながもどかしいスパンで言った。


「いいの? 小夏ちゃん」


頷くと、軽く鼻がぶつかって、それからどちらともなく唇を寄せた。

ソファで海月に抱かれながら、わたしは観察してみた。初めてのときよりも冷静になれた。
いつもは掴みどころなく、飄飄としているくせに、息を乱してる。頬に、耳に。動くたび、熱い吐息がかかる。
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