mimic
× − × − ×


「管野さん、この子、超可愛くない⁉︎」


考えた挙げ句わたしは、ただ首を傾けた。

千葉さんが指差したシーズーも、だけど、瞳をキラキラに輝かせて興奮する千葉さんも可愛いな、と思ったからだ。
素直に表現できるところが、いいなって思った。


「千葉さんは犬がお好きなんですね」
「うん、大好き! 猫も好きだけどね。管野さんは?」
「わたしは、キ……、」


狐、と言おうとして、口をつむいだ。
頭上に疑問符を浮かべる千葉さんに向けて、唇を左右に広げてにっこりと笑ってみせる。

わたしは先月から、近所のホームセンターで働いている。内容はレジと商品補充。千葉さんはペットショップコーナーのトリマーさんだ。
早番で入った日は、上がったあとにペットショップコーナーに戻って、歳が近い千葉さんとこうしてお喋りしている。


「ところで菅野さん、のんびりしてていいの?」
「へ?」
「ほら、今日は早く帰らなきゃって、休憩のとき言ってたから」
「あ、そうでした」


腕時計を確認し、「お疲れ様でした」千葉さんに頭を下げてから、控え室に向かった。従業員用の通路を歩きながら、エプロンを外す。

ついでに制服である黒のポロシャツも脱いでしまえ。
胸元のボタンをすべて外し終えたところで、控え室が見えてきた。足早に前を通過して、隣のロッカー室のドアを開ける。ポロシャツの裾を大きく捲し上げたとき。


「あ。」
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