mimic
声を発したのは、たった今控え室から出てきた相手の方だった。
ロッカー室のドアが閉まりきらないうちにブラジャー姿を晒すわたしを見て、完全に停止している。

わたしは表情を変えることなく、ポロシャツの裾を下ろして胸とお腹を隠した。


「あの、俺、阿部です。今度人事異動で、新しくこの店舗の店長になります。よろしくお願いします」


相手はそこまで一息で言った。


「管野小夏です。よろしくお願いします」


お辞儀をして、頭を上げるより先に、「実はまだ手違いで引っ越しが済んでなくてバタバタしてるんだ。今日は挨拶だけで、明日から出勤します」阿部店長はぺらぺらと話し終えた。


「はあ、そうなんですか」
「では」


片手を挙げ、リュックを背負ってそそくさと去って行く。


「……お疲れ様です」


わたしはロッカー室のドアを閉めた。

帰り支度をして、売り場に戻る。
なんかちょっと、さっきの人を不審に思ったからだ。勝手に入れない、スタッフ専用の控え室から出てきた男。セキュリティーとか、しっかりしてるとは思うんだけど……。けっこう若かった。ほんとに新しい店長?

一番話しやすい千葉さんに聞いてみようと思ったのだ。
すると。


「ああ、管野さんも阿部店長に会ったんだ」


千葉さんはあっさり言った。


「どうだった?」
「はあ、どうって言われても……」


下着見られちゃいましたーなんて、言えるはずもなく。
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