mimic
「__おはようございます」
翌日になると、昨日までの嵐が嘘のように、雲ひとつない真っ青な空が広がっていた。
マンションの前でばったり出くわした阿部店長は、「……おはよう」ちらりとわたしを一瞥しただけで、すぐに前を向いた。
自転車を、乗らずに引っ張って歩くもんだから、行き先が同じであるわたしたちは並んで歩く他ない。気まずい。
「弟さん、じゃなかったんだね」
ぽつりと呟いた阿部店長の言葉に頷く。
まだ乾き切らない水溜まりを避けながら歩く。
「否定しないから、てっきり……。そういう関係だとは思わなくて。大きな家にご一緒に住んでる、ご家族だとばかり……」
仕事が休みの海月は、朝から庭をいじっている。
きっとわたしが帰る頃には、すべてが元通りになっているだろう。
「彼氏、なんだよね?」
歩調が緩くなった。
潮の香りを運ぶ秋風には、僅かに雨の匂いが混ざっていて。
「彼は……、わたしのたったひとりの、かけがえのない人です」
台風一過の空が眩しい。
目を細め、海月の真似をして笑う。
「心から愛する人です」
阿部店長は、ホームセンターに着くまで無言だった。
その日、シーズーは例のおばさんに売れたのだった。おばさんの胸に抱かれ、無邪気にはしゃいでて可愛かった。
おばさんはわたしのことを覚えてくれていた。おじいちゃんのお通夜にも来てくれてた。
最近、お宅のお庭素敵ねと、私の散歩コースなのよ、と言った。これからはこの子と一緒に歩くわ、と。
千葉さんも嬉しそうだった。庭師の彼氏さんのお陰ですか? なんて、にやにやしながら冷やかされたのはとっても恥ずかしかったけど。
その日、大きな水槽に引っ越したうちの金魚は二匹に増えた。
翌日になると、昨日までの嵐が嘘のように、雲ひとつない真っ青な空が広がっていた。
マンションの前でばったり出くわした阿部店長は、「……おはよう」ちらりとわたしを一瞥しただけで、すぐに前を向いた。
自転車を、乗らずに引っ張って歩くもんだから、行き先が同じであるわたしたちは並んで歩く他ない。気まずい。
「弟さん、じゃなかったんだね」
ぽつりと呟いた阿部店長の言葉に頷く。
まだ乾き切らない水溜まりを避けながら歩く。
「否定しないから、てっきり……。そういう関係だとは思わなくて。大きな家にご一緒に住んでる、ご家族だとばかり……」
仕事が休みの海月は、朝から庭をいじっている。
きっとわたしが帰る頃には、すべてが元通りになっているだろう。
「彼氏、なんだよね?」
歩調が緩くなった。
潮の香りを運ぶ秋風には、僅かに雨の匂いが混ざっていて。
「彼は……、わたしのたったひとりの、かけがえのない人です」
台風一過の空が眩しい。
目を細め、海月の真似をして笑う。
「心から愛する人です」
阿部店長は、ホームセンターに着くまで無言だった。
その日、シーズーは例のおばさんに売れたのだった。おばさんの胸に抱かれ、無邪気にはしゃいでて可愛かった。
おばさんはわたしのことを覚えてくれていた。おじいちゃんのお通夜にも来てくれてた。
最近、お宅のお庭素敵ねと、私の散歩コースなのよ、と言った。これからはこの子と一緒に歩くわ、と。
千葉さんも嬉しそうだった。庭師の彼氏さんのお陰ですか? なんて、にやにやしながら冷やかされたのはとっても恥ずかしかったけど。
その日、大きな水槽に引っ越したうちの金魚は二匹に増えた。