mimic
『弟さん、じゃなかったんだね』


あれ以来、お互い仕事には差し支えのないようにしているけれど、気まずいので必要以上に絡まないようにしている。

阿部店長はわたしに目配せし、ちょっと頬にアクセントをつけただけの挨拶を返すと、わたしたちと同じテーブルで愛妻弁当を食べていたガーデニングの担当の落合さんに歩み寄った。
雪囲いのシーズンなので、竹やムシロがよく売れていて、売り場や発注に関する話をしている。


「今にも雪が降りそうなくらい寒いもんねー」


千葉さんは食べ終えたチーズバーガーの包装紙を丸め、うんざりしたように言った。


「菅野さんちはどうしてるの? 雪囲い。やっぱり庭師の彼氏さんがやってくれるの?」
「え、菅野さんの旦那、庭師なの?」


落合さんが愛妻弁当の蓋を閉め、ひとつ席を開けて座るわたしに体を向ける。


「はい。あ、旦那じゃないですけど……」
「へえ、俺も知ってる会社かな? なんてとこ?」
「ええと、たしか、フォレストカンパニーって会社です」


と、答えるや否や、わたしの横でカップラーメンにポットのお湯を注いでいた阿部店長が、急に振り向いて凝視してきたから驚いた。


「フォレストカンパニーって、あれだよね。結婚式場とかレストランとかの運営会社、だよね。たしかほら、あの有名なアミューズメントパークとかもそこが親会社だよ」
「え?」
「俺、前の妻とそこで挙式したんだ」


反射的に姿勢をただすわたしの目を真っ直ぐに見た阿部店長は、よどみのない口調で続けた。


「そこって、造園会社じゃないよ」
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