mimic
穏やかに諭すような声。
けれども阿部店長の眉が片方だけピクリと歪んだのを、わたしは見逃さなかった。


「えー、そうなんですか? じゃあ、菅野さんの彼氏さんは専属の庭師さんってことなんですかね。ガーデンウエディングのための」


携帯のデジタル時計を確認し、千葉さんが立ち上がる。


「あ、そうそう! 落合さん、明日の夜、大丈夫ですよね?」
「うん、ほぼ全員参加できるって」


わたしも立ち上がる。
硬い表情でまだこちらを見ている阿部店長が、目の端に映る。


「菅野さんも来ますよね。駅前のすっごく人気のお洒落な洋風居酒屋、予約できたんですよ! 人気で混んでたのに、奇跡的に!」


え、明日……?
という当惑するわたしの顔つきに気づいたのか、千葉さんはちょっと怒ったような声で続けた。


「阿部店長の歓迎会ですよぅ! 忘れたんですか⁉︎」
「あ……」


そういえばちょっと前に出欠の確認をされたような気がする。
全員参加だって強引に誘われたから、断りきれなかったんだ。こんなときに飲み会なんて、気が乗らないけど……。

千葉さんが依然、頬を膨らませているので、行った方が良さそうだなって思ってわたしは焦ってかぶりを振る。


「お、覚えてます!」


席についた阿部店長に一礼し、わたしたちは持ち場に戻る。
休憩室を出るときも、驚いたような、なにか言いたげな複雑な面持ちで、阿部店長はわたしを見つめていた。




< 84 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop